屋上の美少女とピアノさんギター
さん
想像すらできなかった事実
実行委員のお手伝いさん
雪菜の決意
秘めた想い
カミングアウト
ピアノさんの正体
二人の想い
屋上の美少女とピアノさん
「…ふぅ」
春の温かい陽射しが傾き、徐々に前の季節が冬だったことを思い出させる冷ための空気が辺りを覆う頃、雪菜は一人、校舎の屋上にいた。
ベンチがあるわけでもない、ただ、転落防止のためのフェンスがあるだけの屋上は、人気が無いのかあまり立ち入る生徒はいなかった。
それが、雪菜がここにいられる理由。
『見られたくない』というと少々語弊があるかもしれないが、周りの視線を感じずにいられる場所は彼女にとって貴重だった。
入学したての頃はまだ良かったが、秋になって学園祭のミス峰城大付属コンテストで優勝してからは、常に注目されるようになった。
休み時間にこっそりあくびしただけで、
「あっ、ミス峰城大付属の小木曽さんがあくびしてる~、かわいいなぁ。」
という男の子の声が聞こえてきたりした。それに反応して真っ赤になると、別の声が
「うわぁ~照れてる、照れてる!あのしぐさ、たっまんないなぁ~」
といった具合に、いつの間にかどこにいても気が抜けなくなってしまった。
『美人だけど気取ったところが無く、物静かで、誰とでも同じように穏やかに接して、男子からも女子からも好かれる皆の憧れのお嬢様』という評価に
「どこの誰よそれ…」
と思いながら、自分から本当の姿をカミングアウトできずに、肯定も否定もしなかったらそれが定着してしまっていた。
2年の時のミス峰城大附には出るのをやめようと思っていた。けれど、弟の孝宏に
「姉ちゃんの話聞いてるとさ、なんか付属の皆、姉ちゃんの事、過大評価してないか?中学の時はそんなこと無かっただろ?
たまたままぐれでミス峰城大附で優勝しちゃっただけなのに、今年も優勝候補№1なんておかしいだろ。もっとふさわしい子いるはずだろ?
皆が誤解したままの状態なのに、たとえ出なくても、『もし出てたら…』なんて言われちゃったらかえって伝説化しちゃうぞ。
1年にすっごくかわいくて自分から優勝宣言しちゃってる子がいるんだろ?素直に出て負けたほうが絶対いいって」
なんて言われて
「そうよね、確かに自分から身を引きましたなんて思われちゃったら意味無いもんね…って孝宏!何で1年の子のこと知ってるの?お姉ちゃんだって知らないのに!」
思わぬところで弟の情報網が暴露された。
「いや、姉ちゃんが優勝してから中学でも少し話題になったりしてたから…いろいろ情報持ってくるやつがいるんだよ!」
「そう、まあいいわ。確かに1年の時のは何かの間違いだと思うから今度こそきちんと負ければいいのよね」
と、そんな感じで出てみたら、圧勝してしまった。結局2年連続というさらなる高評価になり、注目度はさらに増した。
そんな雪菜が偶然見つけた一人になれる場所がこの屋上だった。すぐ下は第一音楽室と第二音楽室。音楽系の部活は新校舎の第三音楽室を使っていて、第一音楽室は時々同好会なんかが使用する程度。第二音楽室は詳しくは知らないが、音楽科の個人練習に使われているようだった。
つまり、あまり人が来ない教室の上にあるからなのか、ほとんど誰も来ない言うなれば寂しい場所だった。
初めてここに来た時は、嬉しくて歌い出しそうになった。
「あっぶな~、こんなとこで一人で歌ってるの見つかったら何て言い訳するのよ…」
自分にとっては不本意なイメージであっても、良く言われる事に悪い気はしなかったのでそのままにしておいて、今更違うって分かったら何て言われるか…。
少なくとも学園にいる間はほとんどをクラス単位で過ごす訳なのだから、ある意味閉鎖的な1年を毎年過ごすことになる。
「大学に進学するまでの辛抱。大学に入ったら……」
雪菜が気にしているのは、中学の頃、誤解から仲間外れにされてしまった半年間。あんな思いはしたくない。それだけ。
親しかったから、距離が近かったからこそ、拒絶された時には何もかも無くなってしまったあの時…。
だから今は決して人との距離を縮めようとしないこと。皆同じように接して敵も味方も作らない。
特に、誰かを好きだなんて例え誤解でもうわさ程度でもされないように、男の子の話題を自分からは絶対出さないようにしていた。だって、中学の時の仲間外れは男の子からの告白がきっかけだったから…。
屋上にいる時は確かに1人だったけど、辛いとは思わなかった。むしろ、周りからの視線から開放された自由のほうが大きかった。
それに、いつも聞こえてくるピアノの音。多分、音楽科のそれもトップクラスの優等生だろう演奏者。いつ聴いても正確でわずかの乱れも無い。
はじめのうちは、あまりに正確なのでCDかと思ったこともあった。でもある時、演奏中に突然鍵盤を叩きつける音とともに中断した。
「え? 何か怒ってる…?」
それから暫くは、ピアノの音色をじっくり聴くようにした。それで雪菜が感じたのは
「すごく寂しそうな音色…。拒絶…孤独…?」
雪菜の心にも同じような気持ちがあったからなのか、それは定かではないが、何故かその音は寂しそうに感じた。
「楽しい曲のはずなのに、無理に笑ってるような感じ…。激しい曲も、雄大な曲も、聴いているといつの間にか孤独感が溢れてくる……」
いつの間にか、気づくと涙が流れていることもあった。そしていつしかその演奏者に親近感を感じるようにもなっていた。
「いつか、友達になれるかな…?」
普通科と音楽科は仲が悪いというのはもはや常識と言ってもいいぐらいだし、誰にも相談できないだろうから無理な願いかも知れないとは思った。
「届かない…叶わない…そんな想いかもしれないけど…。いつか…」
もし、相手が男の子だったら恋に落ちてしまうかも、そんな気も少ししていた。
ギターさん
ある日、いつものように『ピアノさん』の演奏に耳を傾けて妄想に浸っていたら、突然、下手くそなギターの音が割り込んできた。
「あれ?、おっかしいなぁ…」
これまで雪菜が少ない情報源から集めた情報によれば、第一音楽室は火曜と木曜の午後に軽音楽同好会が使用していて、けれど彼らの練習は午後5時まで。
今はもう5時半。いつもなら、これから暫くはピアノの音しか聞こえてこないはずだった。
「誰よ、もぅ…。せっかくのピアノさんの演奏が台無し…」
その日はそれ以上聞いているとイライラしてきそうだったから、諦めて帰ることにした。そのとき…
「あ…。」
ギターの演奏が『ホワイトアルバム』に替わった。雪菜は最初はさらにイライラが増しそうになり、
「私の大好きな曲を下手な演奏しないでよ…!」
と、思ったのだが、そのギターの演奏はさっきまでとは明らかに違っていて、もちろん上手ではないのだけれども、拙いながらも曲への想い入れが感じられた。
「きっとこの人は『ホワイトアルバム』が大好きなんだ。だから一番練習してるんだ…」
勝手なもので、さっきまでの最低の評価が一瞬でひっくり返ってしまった。暫くギターは『ホワイトアルバム』を多少ミスしながらも一生懸命演奏していて、気がつくと、いつの間にかピアノの音は聞こえなくなっていた。
それからは、雪菜が屋上へ行く目的は「ピアノさん」と「ギターさん」の演奏を聴くためになっていた。もちろん腕前は全く違う。
プロのピアニストのような「ピアノさん」に対し、始めたばかりなぐらいの素人の「ギターさん」。
でも、そのあまりのレベル差のおかげで、ピアノの音をBGMにしながらギターの音を聴くことはいとも簡単に出来た。
「ギターさん」は、地道で、真面目で、謙虚で、努力家で… ほんの少しずつだけど確実に上達していた。
そして、分かったこと。
同じクラスの依緒の友達が軽音楽同好会の部長で、メンバーは全員3年男子。
もちろん、雪菜が強引に聞き出したのではなく、依緒との雑談中に不審に思われないように注意深く、でもさりげなく話題を誘導しての成果だった。
「ギターさん」に関しては、軽音楽同好会の補欠ということと、依緒が「あいつ」という言い方をしていたことから、依緒のかなり近しい友達ということまで分かった。
もちろん、今は正体を知る必要は無い。変に聞き出そうとして『小木曽雪菜が興味を持った初めての男』などと騒がれてしまったら迷惑がかかってしまう。
できれば卒業前に依緒にどこの誰かを聞いて、
「あなたのギターをいつも聴いていました!」
って……言えたらいいなぁ…。
相手は男の子だから…これは…恋?顔も名前も知らないからそんなことは言えないかもしれないけど、少なくとも好感度は高かった。
雪菜にとって、学園の同級生は全て横並びにしておきたかった。誰も嫌わず、誰も贔屓せず、好感度は誰もが10段階評価の『5』にしていた。
それが、「ピアノさん」に対してはいつの間にか『7』を付けた。そして、3年になって同じクラスになった『水沢依緒』
これまでのクラスメイトとは違い、彼女だけは雪菜を特別扱いしなかった。つまりは遠慮が無かった。でもそれが心地よかったので依緒には『6』。
そして今度は「ギターさん」。彼の『ホワイトアルバム』を聞いただけで『6』を付けてしまった。その後、地道な練習態度によって今は『7』。
「やっぱり、いつの間にかランク付けして差をつけちゃうんだよね…。ランクの高い子に拒絶されるのが怖いくせに…」
だからこその依緒の『6』。正体の分からない二人が『7』だから、最上位からは絶対拒絶されないから。
「これって、逃げ…なんだよね…」
雪菜はつぶやいた。
想像すらできなかった事実
明日から夏休み。
今日の『ホワイトアルバム』は、かなり聞きやすかった。
「ギターさん、ずいぶん上手くなったよねぇ」
ギターさんの上達を雪菜はまるで自分のことのように喜んでいた。
でも、明日からは暫く「ギターさん」とも「ピアノさん」ともお別れ。夏休みだから。おそらく今年はこれまでで1番辛い夏休みになるだろう。
大好きな二人の演奏を1ヶ月以上も聴く事が出来ないなんて…。
もしかして休み中でも練習しているかもしれないから、こっそり来てみようか。それは考えた。
でも、だからといって、雪菜が突然補習も何も無い日に登校してきたら、それだけで注目されてしまう。きっと、屋上に行くチャンスなんか無いだろう。
「いい。きっとギターさん、夏休みが終わったらものすっごく上手になってるから。ほんっとに楽しみにしてるから…」
仕方がないので期待を込めてそんな事を考えて、結局は休みが終わるまで待つしかないと無理やり自分を納得させた。
夏休みが終わって最初の火曜日。屋上で雪菜は愕然としていた。
「…どうして……?」
最初は何が起こったか分からなかった。だって、楽しみにしていたギターの音色は弾き始めからはっきりと(でもほんの少し)上達を感じられるものだった。
けれど、雪菜がほっとして聴く態勢になった瞬間に彼女が耳にしたものは、ピアノの音。もちろん、さっきまで聴いていた「ピアノさん」。
でも、その音は明らかにギターに合わせていた。しかもその音色には、これまで雪菜が感じていた「孤独」など微塵も無かった。
つたないギターの演奏に、そっと寄り添うように、あくまでギターの邪魔をしないように。でも、どこか楽しそうに。
少しずつ思考力が戻ってきて、なんとか考えてみる。確かに「ギターさん」の演奏が始まる前までは、これまでと同じ「ピアノさん」の演奏だった。
それが、「ギターさん」の演奏が始まった直後に突然ピアノの音が消え、やがて、そっと音が寄り添っていった。
必死にそこまで思い出すと、雪菜はもう、屋上にいられなかった。
階段を駆け下り、教室に行き、置いてあった鞄を掴むと、あっけにとられるクラスメイトを横目に教室を後にした。
気がついた時には自分の部屋で呆然としていた。どうやって帰ったかも覚えていない。
その後、夕食もそこそこに再び部屋に戻った雪菜はようやく落ち着いて考えられるようになっていた。
いつの間に二人が知り合ったのか。そもそも以前から知り合いだったのかもしれない。
それでなくても第一音楽室と第二音楽室は隣同士なんだから、顔を合わせる機会なんかいくらでもある。
一人で屋上にいた「小木曽雪菜」、一人で孤独な演奏をしていた「ピアノさん」、一人で居残り練習をしていた「ギターさん」。
でも本当に一人だったのは自分だけだったなんて…。
「仲間外れ…なんだよね……」
自分のつぶやいた言葉に雪菜は今更ながら気づいた。いつの間にか自分勝手な仲間意識を持っていたことを。
そして、いかに自分が「仲間外れ恐怖症」なのかを思い知った。
だって、仲間だと思っているのは自分だけ。彼らは私の存在なんか知るわけがない。私が勝手に聴いてるだけなんだから。
もし…彼らの演奏に合わせて自分の歌を乗せることが出来たなら……、なんて、考えるだけ無駄。出来るわけない。そんなキャラじゃない、今の私は……。
明日はバイトがあるから、次に屋上で彼らの演奏を聴けるのは1週間後。
今は屋上に行く気になれないけれど、じっくり考えてそれまでに行くか行かないか決めればいい。そう考えると少しは楽になった。
部屋を出て階段を降り、母に告げる。
「今からカラオケ行って来る!」
突然の娘の言葉にもあまり気にした様子もなく
「そ…そう…?あまり遅くならないようにね」
「うん。わかってる。行ってきます!」
とにかく今は気分転換!切り替えなきゃ!そう思ったら歌いたくなってきた。
一通り新曲を歌い終わると、かなり落ち着いてきた。やっぱり私は歌うことが好き!そう、改めて思った。
だからこそ、彼らの演奏で歌いたい。仲間に入りたい。同じ時間を共有したい。そう、願わずにはいられなかった。
そして、彼らの演奏で歌いたい曲は…
「やっぱり、これだよね。」
何度も打ち込んで、暗記どころか考えなくても指が動くほどに好きな曲。
流れてきたのは『ホワイトアルバム』。そして雪菜はイメージする。いま聞こえてくる演奏があの、ギターとピアノのセッションだと…。
そのイメージの中で『ホワイトアルバム』を歌い終わると、もう、迷うことは無かった。
彼らが知り合いで、いや、それどころか仲がいいらしいことが嬉しく思えてきた。
だって、もし、全く見ず知らずの他人同士だったら、自分がそれぞれと知り合った後にお互いを引き合わせないといけない。
でも、それが、単純に自分が二人の中に入ればいいだけなんだから…、これはラッキーなんだと。
実行委員のお手伝いさん
秋になり、学園祭が近づくと回りの空気も少しずつ浮ついた感じになってきた。
そんな中で、雪菜には今年もやっぱり「ミス峰城大附」の話が来た。雪菜は今年こそ参加を断ろうと思っていたのに、実行委員の
「小木曽さんは、去年、一昨年と連続優勝。当然今年は三連覇の期待がかかるわけだけど、その辺りの意気込みは?」
という、いきなりの畳み掛けるようなインタビューに
「あ、あの…」
と、口ごもっていると、雪菜の戸惑いなど無視するかのように、インタビュー内容が捏造されていく。
さらに喋り続ける実行委員にこのままではうやむやのうちに参加がきまってしまうと思い、
「あの、実行委員さん…」
と、何とか彼の言葉を遮ってみるが
「いや、実行委員はこいつだけで、俺は単なる手伝いなんだけど…」
いかにも取り仕切っている感じのインタビューアーは、隣でただ見ているだけの男子を目で指し示した。でも、単なる手伝いとは思えないほど生き生きとしていたんだけど…
雪菜にとっては、実行委員だろうと手伝いだろうと、どっちでもよかったのだが、とりあえず参加辞退を申し出ると、
「…もしかして、前からこういうイベント自体が嫌だった?」
お手伝いさんの受け答えがちょっと変わってきた。さっきまでの強引さがいきなり消えたので、雪菜は彼にちょっと興味が出てきた。
それから暫くなんとかエントリーさせようと頑張る実行委員とそれを嗜めるお手伝いさんとの口論が続いた。
しかもこのお手伝いさんはその他にもいろいろお手伝いしているみたいで、こうしている間にもあちこちから様々な依頼を受けていた。
真面目で、誠実で、責任感が強い……彼の姿勢にいつの間にか雪菜は、自分が無責任な人間に思えてきてしまった。
「………棄権、撤回します。3年A組小木曽雪菜です。今年もよろしくお願いします」
かなりの無理を平然と受け入れるお手伝いさんと比べて、自分の態度が恥ずかしく思えてしまったから。
何よりも、自分を特別扱いせずに、他の子と同じように接してくれる彼の態度が心地よかったから。
次の日の夕方はスーパーでのバイトだった。
店頭で品出しをしている時に、前からクラスメイトの依緒が歩いてくるのが見えた。少し緊張したが、これまでも気づかれていないので特に隠れることもせず仕事を続けた。
予想通り、依緒は気づかずに通り過ぎたが、その直後、知り合いに会ったらしく話し声が聞こえてきた。
「あれ…?」
依緒の話し相手の声に聞き覚えがあった。そっとそちらを盗み見てみると、相手はあの実行委員のお手伝いさんだった。
「へぇ~、依緒ともあんな風に話すんだ。そういえばどっちも私を特別扱いしないよね…」
ちょっと嬉しい。依緒の知り合いなんだから、これからいっしょに仲良くできる可能性が高い。もちろんこっちから強引にお願いはできないけれど…。
並んで歩きながら駅へと向かう彼らの後姿を見ながら、雪菜は不思議な気持ちになっていた。
雪菜は、この二人に同じような好感を抱いていることに気づいた。
そう、いつの間にか「お手伝いさん」の好感度は依緒と同じ『6』。付属入学以来、初めて顔見知りの男の子に好意を感じていた。
そして、今日は「ギターさん」の練習日。
雪菜はいつものように夕方屋上に行くと、そっと目を閉じた。風が心地良い。
いつものように、「ピアノさん」は淡々と演奏している。「一人の時は、孤高のピアニストなのよね…」
でも、もうすぐ「ギターさん」の練習の時間。
やがて、ギターの音が聴こえてきた。
「あ……あぁ!」
雪菜が耳にしたのは、確かに聴きなれた『ホワイトアルバム』だったが、明らかにいつもと違う、言うなれば「気合の入った」演奏だった。
そして、それに合わせるピアノもいつもの寄り添う感じの音ではなく、どちらかと言えば対等に、楽しそうに、音を重ねていた。
「すごい!…すごいよぉ……」
心が揺さぶられる!いろんな感情が胸の中で渦巻いてゆく。嬉しくて!切なくて!張り裂けそうな想い!
二人の完璧なセッションに、もう我慢が出来なかった。
「過ぎてゆく~季節に~♪」
自分が今どこにいるのかなんて、もう、どうでもいいと思えてしまった。歌いたい!ただそれだけしか考えられなかった。
背筋を伸ばし、両手を握り締め、空へ向かっておもいっきり歌った。どうか、この気持ちが二人に届きますように…!
バタン!!
その時突然屋上の出入り口の扉が開き、一人の男子生徒が飛び出してきた。
雪菜の決意
夕食後、入浴も済ませた雪菜は、自室でようやく落ち着いて考えられるようになってきた。
本当にびっくりした。初めは何が起こったか分からなかった。
屋上に現れたのは「実行委員さんのお手伝いさん」…そして、ほぼ間違いなく「ギターさん」。
あろうことか、同一人物だったとは、全くの予想外だった。
その彼が、自分たちのバンドのボーカルにならないかと言ってくれた。一緒に学園祭に出ようと…。
学園祭なんてどうでも良かった。
正直、たくさんの人の前で歌うなんて考えられなかった。出来ないと思った。
これまでの『小木曽 雪菜』のイメージとも違う。やっちゃいけないと思った。
でも、それでも彼らの演奏で……歌いたい!
仲間になりたい!
同じ時を過ごしたい!
これまで雪菜は、自分からは目立つ行動はして来なかった。あくまで清楚で、おとなしく、自己主張も抑えて、『箱入りのお嬢様』を演じてきた。
バンドのボーカルなんて、派手で、活発で、自己主張の塊…。
何よりも、歌いだしたら自分を抑えられない。歌うことだけは、譲れない。
本当の自分をさらけ出してしまうだろう。
そんな自分を「ギターさん」はどう思うだろう。これまでの『小木曽 雪菜』を知っている「実行委員さんのお手伝いさん」は…?
いろいろな考えがぐるぐると頭を巡り、ようやく結論を出した頃には時計の針は深夜2時を指していた。
「仕方ないな、今回はお断りしよう……」
彼らの演奏で歌えるという誘惑は、非常に強力だったが、そのためにこれまでの自分のイメージを変える勇気は無かった。
まわりの皆にうその自分を見せてきたと思われるのが怖かった。
ただ、雪菜にはひとつ気づいている事があった。
『彼』に対する気持ち。
「ギターさん」に対する気持ちに「実行委員さんのお手伝いさん」に対する気持ちが上乗せされて好感度は『8』。紛れも無く最上位。
しかも、目の前に実在して、会話も、そして望めばそれ以上の事も可能かもしれない存在。
胸の中に熱い想いが込み上げてくる。まだ、『恋』とは言えないかもしれないけれど、いずれそうなるだろうことは予想できた。
できることなら、これからもっと距離を縮めたい。
「お断りする時に、フォローしよう…」
返事を1日待ってもらったけれど、明日はバイトの日だから、放課後に話をする時間は無い。
「昼休みまでに彼のクラスに行って……って!私って…ばか!!」
突然気づいた衝撃の事実!
「私、彼の名前もクラスも何も知らない…!どうしよう!!」
必死になって思い出してみる。インタビューに来た彼に、何人か呼びかけていたその名前を…。なにか手がかりになるような事を…。
でも、思い出せない……
まわりの音が夜明けを感じさせる頃にようやく一つの光明が見えた。
「そうだ!依緒。彼女に聞けばいいんだ」
どうしてもっと早く気づかなかったのか。落ち着いて考えればすぐに思いつきそうな考えに至るまで、焦っていたからなのか何時間もかかった。
階下では母が朝食の支度をする音が聞こえる。結局徹夜してしまった。鏡を見ると目が少し赤くはれっぼったくなってしまっている。
「一生懸命、参加の検討をしていたら朝になってたって言ったら、少しは印象いいかなぁ…」
そんな事を考えながら、着替え始めた。
「おはよう! あれ?雪菜…今日は早いね。いつもは私よりちょっと遅いぐらいなのにどうかしたの?」
「おはよう、依緒。実はね、依緒にちょっと聞きたいことがあって…」
普段より30分近く早く教室で待っていた雪菜は、彼について早速聞いてみた。
「あぁ、あいつ『北原春希』っていうんだ。クラスは『3-E』。で?なになに?どうしたの?あいつまさか…」
「あ…別に特別なことじゃないんだけど、ちょっと今日、北原君にお返事しなくちゃいけない事があって……でも、放課後は私、用事があって…」
「ん…あーあー。そういう事か!しっかし、あいつがねぇ。まぁ、返事は決まってるんでしょ?じゃ、さっさとケリ着けてきますか」
具体的な事は何も言っていないのに、依緒は全て分かったというふうに答えた。
「それにしても、自分のクラスも名前も言わないなんて、なんてドジなやつ… とにかく行こうか?」
依緒はあきれたように笑うと、雪菜を先導して歩き始めた。
雪菜も慌てて依緒についていった。これからの話の展開を頭の中でおさらいしながら。
依緒が彼を呼びに教室へ入っていくと、一人廊下に取り残された雪菜は急に緊張してきた。
これからの話の進め方は何度も頭の中で繰り返してきた。大丈夫……目を閉じて深呼吸する。
そっと目をあけるとちょうど彼が、『北原春希くん』が視界に入った。というよりも、彼の方向しか目に入らなかった。
「よし!」雪菜は気合を入れると、彼の方へ歩み寄った。
秘めた想い
その日の授業は全く頭に入ってこなかった。
「あぁ…、どうしてあんなこと言っちゃったんだろう…」
雪菜は今日何度目かの深い溜息を吐いた。
『これからも、話しかけていいかな?』
これは、予定通りの台詞。これからも、友達でいてほしいから。
でも、その後のもう一言は、実は予定していなかった。
彼の教室へ入って行った依緒が、彼に話しかける直前に彼が話をしていた女の子がすごく気になったから。
すごくきれいな黒髪のロングヘア。まさに美人と言うしかない顔立ちにすらっとしたスタイル。
依緒が話しかけている間も、彼はその子の方を気にしていた。
廊下で彼と話している時も、雪菜はその事が頭から離れなかった。だから、何とかして心理的優位が欲しかった。
『学園祭…一緒に回れない、かな?』
―もし、OKして貰えたなら、少しは安心できるかな… だめなら、ボーカルを断ったことを少し後悔してしまうかも…
『あ…ああ、俺で…よければ…』
―うん、これはOKってことだよね。あの子とはそういう約束をしていない、その程度の関係だってこと。
そこまで思考を巡らせて、雪菜は気がついた。これって、もしかして告白っぽい?
依緒も言っていた。学園祭で一緒に回ろうっていう男子からの誘いに簡単にOKしちゃダメだって。絶対に交際OKだって勘違いされるからって。
無意識のうちにその逆パターンをやってしまっていた。
確かにそうだ。学園祭で一緒に回っている男女は、ほとんどが公認のカップルだった。
でも、チャイムが鳴って教室に戻った後、依緒と話していても、そんなニュアンスの話題は出なかった。それどころか、
『春希もそんなに落ち込んでなかったからさ、気にすること無いよ!』
―うーん…、もしかして社交辞令として受け取られていたとか…?もういい、焦らず、ゆっくりと彼の気持ちをこちらに向けよう。
―今日はバイトだし、気にしていると変なミスしちゃうから、切り替えよう。とりあえず、まずは、友達からだ。
実際にはその日のバイト中もまだ悩んでいた。いや、バイト中だからこそ悩んでいた。
今の雪菜の姿を知られたくないから、自分をさらけ出せないから、彼を失望させたくないから。
この一番大きな隠し事が今更ながら重く圧し掛かってきた。
そんな事を考えながらあと少しでバイトが終わるという時間になって、遠くにその北原くんの姿を見つけてしまった。こっちに向かって歩いている。
慌てて後ろを向くと、かがんで商品の整理をしているふりをしながら、右後方から歩いてくる彼の姿を肘の下あたりからこそっと確認していた。
このまま後ろを通り過ぎたら、後ろ姿を見送ろう。心の中で彼に謝罪しよう。
通り過ぎたタイミングを見計らって顔を上げ、去っていく彼の姿を探した。
「あれ、いない……」
そう思った瞬間
「小木曽」
自分に向けられた彼の言葉に、ただ、驚くしか無かった。
「もう一度話があるんだけど…いいかな?」
憎らしいほど気負いのない彼の瞳に見つめられていた。
「あ…う…うん。バイトもう少しで終わるから、え…と、そこの公園で待ってて貰えるかな…?」
「ああ、いいよ、分かった。じゃぁ」
そう言うと、北原くんは公園の方へと歩いていった。
「あぁ……、どうしよう…」
全くの予想外の展開にその後の仕事は上の空だったが、何とかミスをせずに終われた。
ロッカーから荷物を出しながら扉に付いている鏡で自分自身を見つめてつぶやいた。
「完璧だと思ってたんだけどなぁ…」
変装がバレてしまっていたのは仕方がない。とりあえずその事は、もう、済んでしまったこと。
今問題なのは、いったい、彼が何の為にここに来たのか?
もしかして、やっぱり学園祭は一緒に回れないとか………
カミングアウト
「そっか、そっか… そういうことだったんだ…」
春希の話を聞くと、心底納得したというように雪菜は呟いた。
「そういうことって…何が?」
一人で納得している雪菜に春希は問い返した。
「初めて北原くんとお話ししたときのこと、ちょっと引っかかってたんだ」
そう、不思議な感じだった。他の人たちとはわたしに対する認識が違ってた。
「知ってたんだ…このわたし」
実はちょっと嬉しかった。
「いつから?」
「2年の夏頃かな?その先に小さな中古楽器屋があって、よく武也に連れてこられてて…」
―う……うそ!…そんなに前なのぉ?
内心びっくりしたが、それを悟られないように雪菜は
「そんなに前から…北原くん、わたしのこと知ってたんだ…」
でも、嬉しかった。もしかして、その頃からわたしのクラスとか名前とかも知っててくれたのかなぁ…?
「いや、小木曽のことだったら、同じ学年の男子は全員2年前から知ってるから。
少なくとも1年のときの学園祭以降なら…あ」
春希はすぐに失言に気付いたが、時すでに遅し。
「………」
―そんなことで知っててくれても嬉しくないんだけどなぁ…
雪菜の表情が曇ったのを、春希も気付いた。
「すまん」
でも、そのおかげで雪菜の立場が上に行けた。考えていた話に持っていくなら今だ、そう雪菜は考えた。
「わたしの家ね…」
それは、雪菜が初めて同級生に話す自分の家庭の話。
彼にだけは、誤解されたままでいたくない。ありのままの自分を知ってほしい……って。
ただ、それを話すのはもう少し先だと思っていた。もう少し親しくなって、少しずつ…だと。
でももう、そんなこと言っちゃいられない。だって、もう、隠す必要が無いから。
―こんなわたしを、以前から知っててくれたなら……
……もう……こっそりバイトする理由も無い…。
雪菜の告白を、春希は驚いたり呆れたりしながら聞いていた。
おそらくこんな微妙な告白、どう反応していいかわからないんだろうなぁ、と雪菜は思った。
今日彼が来たのは、学園祭のボーカルの話なんだと途中から雪菜は確信していた。
―今、もう一度たのまれたらOK出すから…早く……言って!
けれど彼は言ってくれなかった。雪菜の望んだ言葉を。
「それじゃ…」
―しかも、なんか諦めたような顔してるし…… ヤバイ…、これ、押しすぎて引かれちゃった?
そして、一瞬のうちに別の手を考えた。今日はお父さんは出張で帰ってこないから、門限はなんとか出来るはず……。
「北原くん」
「ん?」
「あのさ… 今夜、もう一度話があるんだけど…いいかな?」
彼は少しとまどったようだった。
「本当のわたしはね…今、あなたが思っているようないい娘なんかじゃないの」
夜の繁華街での待ち合わせ。雪菜が改札を出ると、春希はすでに待っていた。
「おまたせー、ちょっと遅れちゃった… ごめんね…」
「あ、いや…俺も今来たとこだから…」
―あ…なんか、デートっぽい……ちょっと嬉しいな。
そんなことを考えながら雪菜は春希を先導した。
「じゃあ、こっちね」
「ああ…」
雪菜が人ごみの中をすいすいと歩いて行のを、春希も遅れまじとついていった。
そして『ダイマチビル』と書かれた看板のある雑居ビルに雪菜は入って行った。
「え?ここ?……え?」
エレベーターを降りると、そこには『カラオケハウスメイフラワー』と書かれた看板が…
「…え?…なんで……ぇえ?」
戸惑う春希を横目に雪菜はリモコンを操作し、次々とリクエストを入れていった。
そして、唖然とした彼と正面から向かい合って、おもいっきり歌った。
「これが『隠してたわたし』のうちの、最後の最後」
―そう、これでもう北原くんには秘密は無い。これでもう心配することは何も無い。
―バンドのボーカルになって、彼のギターで歌って、そして……
「ね、北原くん」
―だから、この言葉で北原くんの心を捕まえるんだ…
「これにて、小木曽雪菜の秘密は、一つもなくなってしまいました。…あなたに、全部知られてしまったから」
ピアノさんの正体
翌日、雪菜は春希に連れられて第一音楽室へ行った。
突然のボーカル決定、しかもそれが願ってもない最高のアイドルだった事に喜ぶ武也をよそに、雪菜は考えていた。
このまま、隣の『ピアノさん』も紹介してもらおうと。
だから、会話の途中でさりげなく
「今日はピアノの人はお休み?」
と、聞いてみた。
もちろんここに居ないのは知っている。
そして、飯塚くんは恐らくその存在を知らない。
―多分、北原くんだけが知っているはず。ここで教えてもらおう。どんな人なのかを……
「あ、ああ…ピアノの奴ね」
―あぁ…どんな人なんだろう……
「悪い!言ってなかったな。今日は…具合が悪くて早退だって」
春希のちょっと焦ったような言い方が気になった。
―何だろう…何か怪しい……。飯塚くんの態度も変だし……。でもまぁ、仕方ないか。
「うん、わかった。じゃあ、元気になったら紹介してね。あ…でも、だったらそれまで練習はお休み?」
「あ…ああ、そうだな。……また、連絡するから」
―北原くんにそう言われちゃったら、本当に仕方ないなぁ…。
そして数日後、依緒と武也から思いもかけなかった事を聞いた。
「北原くんが、音楽室の窓から落ちそうになったー!?」
「うん、昨日の夕方。窓伝いに隣の第二音楽室に行こうとしたんだって」
「あいつも無茶するからなぁ…」
「……はぁ?」
依緒たちの言葉に驚いた。なんだってそんな事を……
「で、朝から職員室でお説教くらってる、あの春希がお説教されるなんて…くくっ……」
「ちょっと行ってくる!」
「せ…雪菜ちゃん?」
―大丈夫だったのかな?怪我とかしていないよね…
走り出してすぐに予鈴が鳴った。いくらなんでももう解放されてクラスに戻るはず……。なら……
雪菜は春希のクラスを目指して走り出した。
そして……見つけた!廊下にいる…でも……
北原くんは、クラスメイトの女の子と話をしていた。あの綺麗な黒髪の美少女と。
「北原くんっ!」
「小木曽…なんで?」
「飯塚君に聞いて… 大丈夫? 指とか怪我してない?」
―ちょっと彼女の反応を見てみようかな……、ちょっと大胆だけど…えいっ!
雪菜は春希の手を両手でしっかりと捕まえると、必要以上にじっくりと、それこそ毛穴の一つひとつを確かめるように見た。
「いや無傷…わわわわっ」
―北原くんはちょっと驚いたみたいだけど、彼女の方は…… んー、なんか無言でこっちを見てるような……
そんな事を考えているうちに、握った手に逃げられてしまった。
「大丈夫大丈夫大丈夫だから! ホント無傷だから。むしろ心配事はそこじゃないから!」
―でも、そんなふうに大袈裟に逃げなくってもなぁ…
春希が頭上に持ち上げた手を、雪菜は名残惜しそうに見た。
結果として軽音楽同好会は活動停止にはならないみたいだった。
「そうなんだ…よかったぁ。学園祭まであと一月もないもんね」
そう言いながら、雪菜は春希の隣の美少女をちらちらと見ていた。
―何だろう、この子? 北原くんに何か用があるのかなぁ…
雪菜が春希と暫く話していると、やがて
「…それじゃ」
美少女はもう用は無いといった感じでその場を立ち去ろうとした。
―えいっ!思い切って聞いちゃえ…!
「お友達?」
その言葉に、去りかけていた彼女は立ち止った。
―なんか微妙な顔されちゃった……
そんな雪菜の思惑を知ってか知らずか、春希は急ににこやかな表情になって言った。
「あ、そうそう紹介するよ小木曽」
―うっ……紹介されちゃうんだ…
「こっち、冬馬かずさ。………ウチのキーボード担当いてぇっ!」
春希がかずさの肩に手を置いて話し始めたとたん、かずさのパンチが春希の脇腹にめり込んだ。
「ふざけるなこの馬鹿!」
「あ、あは…?」
―うわ!今の結構本気でやってない?北原くん、本当に痛そう… でも……
雪菜は春希のかずさへの態度がすごく馴れ馴れしかったのがショックだった。
けれど、それ以上に気になった事があった。
―キーボード担当って、今、そういう風に紹介するってことは………もしかして彼女が「ピアノさん」!?
―この、綺麗な人が…「ピアノさん」……なんだ…。女の子…だったんだ……。
二人の想い
「これが、わたしと二人との本当の出会い。今まで誰にも話したことなかったんだけどね、もちろん、春希くんにも…」
そこまで一気に話し終えると、雪菜は深く息を吐きながらかずさを見つめた。
「だから、かずさの事はずっと好きだった。それこそ1年の頃からずっと……。かずさにとっては、最初わたしは突然春希くんの前に現れた邪魔者でしかなかったとしても。
……春希くんとのセッションに無理やり入り込んだ厄介者だったよね、わたし…」
雪菜はかずさに謝りたかった。二人だけの時間を奪ってしまった事を。
「ふっ……は…ははは…、そうだったんだ、あはは……」
突然笑い出したかずさに雪菜は驚いた。
「そうか…そんなに前から、あたしのピアノを聞いててくれたんだ…。
でも、あの時の雪菜の歌声は、あたしにとって決して邪魔なんかじゃなかったよ」
かずさの言葉に雪菜は納得できないような顔をした。
「その顔は、信じてないな?」
「だって……」
「考えてみて、雪菜。もし、あたしが二人での演奏を邪魔されたとあの時感じたなら、春希が突然演奏を止めて屋上に駆け上がって行った時に、ピアノ弾くの止めてるはずだろ?」
「あ……」
―確かに、いつも「ギターさん」がミスしたりして演奏を止めたら、すぐに「ピアノさん」も弾くのを止めてたっけ……。
「それでもあたしはピアノを弾き続けた。あの歌声に合わせて引くのが最高に気持ち良かったからさ」
そう言うと、かずさは雪菜の頭を自分の胸に抱え込んだ。
「……かずさぁ…」
雪菜はそのまま顔をかずさの胸に埋めた。
「あたしも、初めてあの歌声を聞いた時から雪菜のこと好きだったよ」
